日本の衣食住
如月
針仕事と針供養
「針仕事」とは針で衣服などを縫う仕事で、裁縫や縫い物とも言います。
昔は針仕事は女性にとって重要な仕事だったので、花嫁修業の一つとして母親やお針の師匠に習い、針仕事を身に付けました。
嫁いで一家の主婦となれば、家族全員の着物を縫い、解れや破れを繕ったり、サイズが変わると仕立て直したりせねばなりません。
洗う場合も単は丸洗いでしたが、袷や絹物、綿入れなどは、一度ほどいて布にして洗う洗い張りでしたから、元通りにするには又縫い直す必要がありました。
庶民の着物は3、4枚程度だったようで、更衣の際には針仕事で着回せるようにしました。
寒い冬には袷の表と裏の生地の間に綿を入れて「綿入れ」にし、春になるとその綿を抜き「袷」にしました。
夏には「袷」をほどき、表地と裏地で二枚の「単」にし、秋になると、その二枚を合わせて縫って「袷」にしました。
着物だけでなく襦袢や羽織など沢山の縫物があったので、針は必需品であり消耗品でもありました。
沢山の衣類を縫ってくれた針たちも、次第に曲がったり折れたり錆びたりしてきます。
これらの針を労い供養する行事を「針供養」といいます。
使い終わった針は、豆腐やこんにゃく、餅など柔らかいものに刺して、川へ流したり神社やお寺に持ち寄って、供養してもらいました。
この風習は中国にあった「社日(土地神の祭日)に針線(針と糸、針仕事)を止む」という古い習慣が、日本に伝わって始まったといわれています。
いつ伝来したかは定かではありませんが、平安時代に清和天皇により針供養のお堂が法輪寺に建立されたそうで、 9世紀後半には日本で針供養の風習があったと考えられています。
現代では針を使うことは少なくなりましたが、昔は衣類をはじめ、身の回りのものは全て自分たちの手で縫ったので、毎日の生活に欠かせぬものでした。
働き者だった折れた針や曲がった針を、豆腐やこんにゃくのような柔らかいものに刺すのは、それまでの頑張りを労い、ゆっくり休んでもらおうとする優しさが込められています。
このように日本の人々は、無生物の針にも命があると考え、生前の働きに感謝して供養してきました。
資源やものが足りないから大切に使うというだけでなく、己を取り巻くすべてのものに感謝と祈りを込めて生きた、日本人の思いが、この行事にも秘められています。
節分の豆まきの豆
季節の変わり目には邪気が生ずると考えられ、節分には邪気(悪霊)払い行事である追儺(ついな)式が宮中でも行われました。
追儺式は鬼やらい神事とも言われ、時を経て庶民の間でも行われるようになります。
庶民行事になると、鬼やらいは「鬼は外、福は内」と言いながら、豆を投げつけて鬼を追い払う行事、豆まきに変化して行きました。
ところでなぜ豆をまくと鬼退治になるのでしょう?
由来のひとつには、京の都に降りて来て悪さをする鞍馬の鬼を、炒った豆で鬼の目をつぶし退治した、という故事があります。
豆(まめ)は「魔の目を打つ」、「魔を滅する」に通じるからという言い伝えもありました。
又、日本人には米をはじめ穀物には邪気を払う力があると考え、豆の霊力で邪気を払おうとしたともいわれています。
節分の豆まきには、豆の持つ生命力や魔除けの呪力などを信じ、無病息災を願う人々の祈りが込められているように感じます。
ところで豆まきに使う豆ですが、地域差があるようです。
大半は大豆ですが、北海道や東北、そして鹿児島と宮崎は落花生が多いようです。
寒く雪が多い地方で落花生が使われるのは、雪の上に播いた時に見つけやすいことや、殻で覆われているので中身が汚れないからだと思われます。
鹿児島や宮崎は落花生の産地だそうで、手に入りやすいということではないでしょうか。
いずれにしても、豆は大変栄養価が高く、たんぱく質の中でも、体内で作れず、食品から摂取しなければならない必須アミノ酸が、沢山含まれています。
ビタミンB1、B2、B6、E、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛等のミネラルも豊富に含んでいます。
中でも大豆や落花生は脂質が多く、特に落花生の脂質は大豆の倍以上です。
脂質は栄養素の中で最大のエネルギー源なので、風雪が厳しい冬を過ごさねばならない北海道や東北では、体温維持のため、大豆より多く脂質を含む落花生が選ばれてきたのかもしれません。
豆まきの枡
節分の豆まきに欠かせないが「枡」です。
枡は穀物などの体積を計量するための道具で、主として、尺貫法の単位である「合」「升」「斗」を量るために利用されてきました。
枡は穀物を量る道具だったことから、その年に収穫された米や麦、豆などを入れたお供えものの入れ物としても使われました。
神様への捧げものを入れた枡は神聖なものであり、五穀豊穣を祈願する意味合いも持つ縁起物と考えられるようになりました。
また枡(ます)は、発展や成長を表わす「増す」や「益す」と同音で、言葉の響きからもおめでたい演技のよい道具と考えました。
節分の豆まきで枡を使うのは、邪気払いと新しい年の健康と安寧を祈り願うのにふさわしい縁起のよい道具だったからでしょう。
おうちで楽しむ如月の風呂敷包み
(枡を包む包み&持ち手包み)
節分の豆まきの豆を入れる枡を包んでみました。
豆を入れて置いて置く時や播く時は、枡の口が開いているように回りを包んであります。
結んだ結び目の上部で小さく真結びをして持ち手を作ると持ち運びに便利です。
今年の干支癸卯柄の風呂敷で包みました。