にほんの四季のうつろい
雑節
明治5年まで、日本は太陰太陽暦、いわゆる旧暦を使っていました。
太陰太陽暦は月の満ち欠けを使って月日を数え、19年に7回閏月を入れることで日付を調整しましたが、年によってはひと月も暦が季節とずれることもありました。
そのため、一年を二十四等分した二十四節気を用いて、正しい季節の目安としたのです。
二十四節気に加え、日本の季節の移り変わりを示す言葉に雑節があります。
農作業の目安にするには、中国から伝わった二十四節気では足りず、より細やかに季節の変化をつかめるよう、日本独自に太陽暦を元とした季節指標を作り、広まったのが雑節です。
一般的に雑節と呼ばれるのは、節分、彼岸、社日、八十八夜、入梅、半夏生、土用、二百十日、です。
それらに加え、初午、三元を元にした上元(小正月)、中元(盂蘭盆)、下元(十日夜、亥の子)、大祓を加えることもあります。
今月はこの「にほんの雑節」をまとめてご紹介します。
節分(せつぶん)
二十四節気には季節の始まりを意味するものが、立春・立夏・立秋・立冬と四つあります。
それぞれ立春に春、立夏に夏、立秋に秋、立冬に冬が始まることを示しています。
節分はそれぞれの前の日のことで、こちらも元々は四つありました。
ただ、次第に一年の初めとなる立春に重きが置かれるようになり、立春の前の日の節分だけが残っていきます。
季節の変わり目には邪気が生ずると考えられ、立春の前日の節分には邪気(悪霊)払い行事である追儺式が行われました。
鬼やらいとも言われる邪気祓い行事は、時を経ていくうちに、豆は「魔滅」に通じるということで、豆を撒いて鬼(邪気)を払う豆まきの行事に変わっていき、今に続いています。
彼岸(ひがん)
「彼岸」とは仏教用語で、ご先祖様が住む世界、三途の川のあちら側の岸のことで、極楽浄土のことを指します。
極楽浄土は西の彼方にあると考えられていたことから、太陽が真西に沈む春分と秋分にご先祖様を供養するようになりました。
元々、日本には古来より春には豊作を願い、秋には収穫への感謝をする自然や祖霊への信仰がありました。
その自然信仰と仏教の教えが結びついて、彼岸にご先祖様に感謝する行事が定着して行ったと思われます。
社日(しゃにち)
春分、秋分に最も近い戊(つちのえ)の日で、春と秋に年二回あります。
春の社日の頃は種まきの時期にあたり、秋の社日の頃は収穫の時期にあたります。
そのため社日は重要な節目と考えられ、春には五穀の種子を供えて豊作を祈り、秋は初穂を供えて収穫に感謝する日となりました。
社日を祝う習慣は元々中国にあり、土を意味する戊の日に豊作祈願をするもので、社とは土地の守護神のことを表しています。
この風習が日本に伝えられると、土地の神様を信仰する日本の風土に合い、重要な農耕儀礼として全国に広まったようです。
土用(どよう)
土用は万物は火・水・木・金・土の五種類からなるという五行説から生まれました。
五行説では春に木の気、夏に火気、秋に金気、冬に水気を当て、残った土気は立春、立夏、立秋、立冬の前約18日に当てられました。
土用の間は土の気が盛んになるため、土を動かすことや穴掘りなどは忌むべきこととされました。
年に四回あった土用ですが、次第に立秋直前の夏の土用だけを指すようになりました。
夏の土用の頃には暑さが厳しくなるので、土用餅、土用しじみ、土用卵、そして鰻などを食べて栄養を摂るようになりました。
八十八夜(はちじゅうはちや)
立春から数えて88日目のことで、農作業の目安の日です。
この頃は種蒔きや田植えの準備、そして茶摘みなど、本格的な農作業の準備をする時期です。
八十八夜の前までは霜が降りることもあるので注意喚起をし、農作業が滞りなく進められるように雑節に定められたとも言われています。
又、八の字は末広がりでおめでたい数字で、八十八はそれが重なった縁起のよい数字なので、八十八夜に摘んだお茶は貴重で珍重され、この日に摘んだお茶を飲むと長生きするとか、一年間病気にならないと言われています。
入梅(にゅうばい)
梅雨の季節に入ることを梅雨入りとも、入梅ともいい、同義語のように使われますが、実際の梅雨入りは暦通りにはなりません。
南北に長い日本では、実際の梅雨入りは沖縄から北海道まで約1ヶ月前後のずれが生じます。
このため入梅は暦の場合でのみ使い、気象庁などが天気予報で使うのは梅雨入りの方を使います。
ところで何故、入梅にしても梅雨にしても梅雨入りにしても、梅という字を使うのでしょうか?
古代中国で、梅の実が熟す頃に降る雨なので梅雨と名付けられたからとも、黴が生えやすい時期の雨で黴雨(ばいう)と呼ばれるようになったが、字の語感がよくないので、同時期に盛りで読みが同じである梅の字を使い梅雨(ばいう)になったとも言われます。
この梅雨(ばいう)は日本で梅雨(つゆ)と読むようにもなりました。
梅雨(つゆ)と読む由来には、雨が沢山降って木々に露がつくことから露(つゆ)になったという説や、熟して潰れる時期でもあることから潰ゆ(つゆ)が梅雨(つゆ)になったという説などがあります。
いずれも梅がキーワードとなっており、入梅は季節になったことを表わす言葉です。
半夏生(はんげしょう)
半夏生は夏至から数えて11日目、太陽暦では7月2日頃に当たります。
半夏生の名前の由来は、烏柄杓(からすびしゃく)の別名を半夏といい、生える時期を半夏生と呼ぶようになったという説や、片白草とも呼ばれる半夏生の葉が、半分白くなりまさに半分化粧をしているように見える頃だからという説があります。
どちらにしても、ちょうど農作業が一段落する時で、半夏半毛、半夏半作(ハンゲハンゲ)とも呼ばれました。
この時期、数日間は体を休め、餅をついたり、団子や饅頭、寿司などを作って食べ、それまでの労働を労いました。
農作業は大変な重労働なので、半夏生の数日間で休息をとって身体を休め、栄養をしっかり補充して、その後続く暑い夏の農作業への準備としたのでしょう。
二百十日(にひゃくとおか)
立春から数えて210日目の日で、暴風雨がよく来る時期です。
この時季は稲が開花・結実する大事なときですが、台風が相次いで襲来する時期でもあり、目安日として定められたのでしょう。
立春から数えて220日目の二百二十日も同様の目安とされました。
大体このあたりの日に全国各地で風鎮め行事や祭りが行われており、先人たちの知恵と経験が、雑節に大いに活かされていると感じます。
雑節のふろしき
昔から世界中の人々が、月が満ち満月になり、又欠けて新月になっていく様を、日々の生活の目安としていました。
その月の満ち欠けが並び、柄になっている風呂敷です。
今日はどの月か考えながら使うのも楽しい風呂敷です。
雑節のふろしきYoutube 「和風リボン包み」
1分で出来る風呂敷マスク 「ふ、ふ、ふ、ふ、ふろしき~風呂敷マスク~」