日本文化の「道」11
日本の「香道」

香道とは、主として東南アジアで産出される沈水香木などの香木を作法にのっとり焚き、その立ち上る香気を鑑賞する、日本の伝統的な芸道です。
香道は茶道と華道と合わせ、三道とも呼ばれます。
三道は共に単なる作法や技巧だけでなく、深い精神性を伴う文化です。
特に香道は「香り」という、目に見えないものを通して自己に向き合う瞑想にも近い体験です。
そのため香道では、香りはその世界観を心で深く味わうため、「嗅ぐ」と言わず、「聞く」と呼びます。
香の楽しみ方としては、主として一種類の香を聞く「聞香(もんこう)」と、複数の香を聞きわける組香(くみこう)」があります。
香道の原点は香りそのものを楽しむことではありますが、学びを進めるにしたがい、古典や書などの教養も求められます。
香道の歴史

「香」が日本で用いられるようになったのは、飛鳥時代に仏教が日本に伝来した(538年頃)と思われます。
日本で一番古いお香の記述としては、595年の「日本書記」に「ひと抱えもある大きな沈水香木が淡路島に漂着し、島人がそれと知らずかまどに入れて薪とともに燃やしたところ、その煙が遠くまで薫り、これを不思議なこととしてこの木を朝廷に献上した」と記されています。
原文:「三年夏四月、沈水、漂着於淡路嶋、其大一圍。嶋人不知其香異薫、以竈焼之、其煙気馥郁、則以異木、即献之。」
奈良時代になると、香は主に仏前を清め邪気を払うため、「供香」として使われ、宗教的意味合いで使われることが主でした。
753年に来日した鑑真和上は、仏具と共に、多様な香料や香木と共に、様々な香料を調合する「調香(薫物の調合法)」をもたらしました。
それまでの日本では、香に直接火をつける「焼香」が主でしたが、鑑真和上の伝えた「調香」は、その後の日本の香文化の基礎となります。
平安時代になると、香の調合方法を学んだ貴族たちは、仏前の「供香」だけでなく、普段の生活の中にも香を取り入れるようになります。
彼らは「薫物」を自ら調合し、衣服に焚きしめる「薫衣香(くのえこう)」や、部屋で焚く「空薫香(そらだきもの)」で香りを楽しみました。
「源氏物語」や「枕草子」など当時の王朝文学にも、香の記述は数々見られます。
鎌倉時代になると、時代は公家から武士のものとなり、禅宗が台頭していき、香も複雑な「調香」から、シンプルな香木の香りを鑑賞し、精神性を尊ぶ方向に進みます。
この頃、香木の香りを繊細に鑑賞する「聞香」の方法が確立され、室町時代には、茶道や華道と共に「香道」の基礎が形作られました。
江戸時代になると、経済力をつけた町人の間にも、香の文化が広がります。
現在の香を聞く「香席」で行われる「組香」の創作や、香を楽しむための道具が様々作り出されました。
そして香をより深く観賞するための作法が生まれ、「香道」として確立されていきました。
六国五味(りっこくごみ)

香道では香木を使います。
香木は主に沈香と白檀ですが、繊細な香りの違いを分類するのに体系づけられたのが、六国五味です。
産出される産地から、伽羅(きゃら)・羅国(らこく)・真南蛮(まなばる)・真那伽(まらか)・佐曽羅(さそら)・寸門陀羅(すもたら)の六つに分類しました。
そして、その香りを酸(すっぱい)・苦(にがい)・甘(あまい)・辛(からい)・鹹(しおはゆみ)と、五つの味わいで表現しました。
伽羅はベトナム産で、その優美で味わい深い香りは最高級とされます。
羅国とはタイ産で、やや酸味のある繊細な香りです。
真南蛮の由来はインドのマナバルとも南蛮船とも言われ、独特の酸味のある香りです。
真那伽はマレーシアのマラッカが語源で、上品で長持ちする香りです。
寸聞多羅はインドネシアのスマトラ産で、酸味と甘さが調和している香りです。
佐曽羅はインドシナ産で、冷ややかでかすかに鹹(しおはゆ)みのある香りです。
どの香木も、これらの味や香りを複雑に兼ね備えており、ひとつひとつ豊かで深い香りを持っています。
香道の流派

御家流と志野流が二大流派です。
御家流(おいえりゅう)
室町時代の公卿の三条西実隆が開祖です。
公家が源らしく、優雅で王朝文学や和歌、季節の移り変わりを重んじ、華麗な蒔絵などの道具を使い、軽やかな作法の流派です。
志野流
室町幕府の武士の志野宗信を祖とする武家の香道です。
簡素な道具を使い、礼儀や作法を通し精神修養を目指す、質実剛健な流派です。
その他の流派
直心流(じきしんりゅう)
松平不昧が志野流から独立し、茶の湯と結びついた流派です。
翠風流(すいふうりゅう)
新作の組香などにも力を入れている流派です。
「源氏香」柄の風呂敷
香合わせの遊びのひとつ、源氏香に因んだ柄です。
平安時代の貴族文化のなかで生まれた遊びの中の香をテーマとしたものが「香合」または「薫物香」です。
各々自らが組み合わせた薫物を持ち寄り、左右に分かれて交互に熏物を焚き比べ判じ合う、典雅な遊びです。
源氏香とはこの組香のひとつで、5種類の香を5包ずつ作った25包を混ぜ合わせ、5包を取り出し焚いて薫じます。
5包の香りを聞いた客は5本の縦線を引いて、同じと思う香りの線の上を横線でつなぎます。
この線の組み合わせで生まれる52種を源氏物語54帖のうち、第1帖の「桐壺」と最終帖の「夢の浮橋」を除く各帖の名に当てはめています。
