日本の浮世絵を楽しむ―3 鈴木春信
錦絵の創始者 鈴木春信
錦絵とは浮世絵の一種で、多色刷りの木版画のことです。
錦絵という名称は、それまでの紅摺絵などに比べ、錦織物のように豪奢で華やかに見えることから名付けられました。
元々浮世絵は単色刷りでしたが、江戸の俳諧人の間で絵暦の競作が流行り、より豪奢で華やかな意匠や色彩が求められるようになります。
鈴木春信は版元に作画を依頼されると、彫師や摺師と協力し、技術を上げて鮮やかな色使いの多色刷りの絵暦を生み出していった浮世絵師らの筆頭でした。
春信は多色刷りの腕を磨くだけでなく、富裕層からの支援や文化人との交流を基に、錦絵の技術開発や新しい色彩表現やデザインに取り組み、錦絵の手法を発展させていった浮世絵師で、錦絵の創始者と言えましょう。
鈴木春信と美人画

鈴木春信「風流江戸八景・浅草晴嵐」
鈴木春信は錦絵の手法を使った美人画を描き、人気を博しました。
春信の描く美人は、華奢で小柄で手足が細く、可憐な雰囲気の若い娘でした。
流麗な描線や淡く柔らかい色調で描かれた美人には、上方文化や中国美人画の影響が見受けられました。
「青楼美人合」は、実在の吉原の遊女166人を一人一人を多色摺した作品で、春信はそれまでにない様々な色を作り出しています。

鈴木春信「笠森お仙」
また、春信は美人画のモデルとして、遊女だけでなく町の娘たちも描きました。
「柳家見立三美人」には、楊枝屋「本柳屋」の娘「お藤」、女形の歌舞伎役者「二代瀬川菊之丞」、「鍵屋」の娘「お仙」が描かれています。
春信の美人画の代表作としては、「風流四季歌仙」「座敷八景」「風流やつし七小町」「風俗六玉川」などのシリーズの他、「夕立」「夜の梅」「雪中相合傘」などがあります。
鈴木春信「夏姿 母と子」にある風呂敷包み

鈴木春信《夏姿 母と子》明和4-5年(1767-68)頃 公文教育研究会蔵
江戸へようこそ!浮世絵に描かれた子どもたち | 企画展 | 千葉市美術館
https://www.ccma-net.jp/exhibitions/special/14-7-8-8-31-1/
鈴木春信の「夏姿 母と子」は、盛夏の母子の様子が描かれています。
母親が抱いている赤子は赤い腹掛け一枚、透けて見える腕から、母親の着物は薄物だと分かります。
真夏の暑さを簾や庭の竹が涼やかに感じさせてくれています。
姉であろう女児が持っているのは団扇、足元にはほおずきと風呂敷包み。
風呂敷包みには、折手本が挟んであるので、寺子屋帰りかもしれません。
風呂敷は寺子屋通いの子どもたちの鞄がわりでもありました。